『先代社長の経営の勘』という言葉をよく耳にしますが、これは根拠のないようなものではなく、確かに存在することだと思います。その最たるものが資金繰りで、なかでも在庫に係る部分ではないでしょうか。在庫と聞くと、試算表や決算書の棚卸資産を考える方もいらっしゃると思いますが、在庫は売上の源泉であり、仕入れる資産でもあります。つまり事業の根底を成す項目なのです。
しかしながら、残念なことに財務数値上の在庫科目は軽視されがちで、「在庫が多くないですか?」や「不良在庫はないですか?」など税金計算のためだけの会話に出てくることが多いように感じます。先代社長から引き継ぐにも引き継げない経営の勘の見どころである、在庫について体系的に説明したいと思います。
在庫の考え方について
在庫の考え方は、3つの点を重視して理解しなければなりません。
- 在庫は業種により性質が大きく異なる
- 在庫は正確な利益計算の最後の砦
- 倒産を招くほどのミスを起こす可能性
在庫は業種により性質が大きく異なる
在庫という言葉自体は、経営や会計に携わらなくてもイメージが沸くとは思いますが、経営に関係する在庫は会計上「棚卸資産」と呼ばれ、業種により範囲も中身も大きく異なります。コンビニやスーパーにおける在庫は皆様のイメージ通りで、仕入れて残ったものです。
しかし、自社で加工された惣菜などは仕入れた材料だけが在庫ではありません。加工にかかる人件費、光熱費なども含むこととなります。つまり商品が販売されるために直接かかった費用が含まれるという事です。建設業者であれば、建設中の建物にかかっている累計の費用が在庫として計上されます。
このように販売用商品、加工用原材料、建設中仕掛、備蓄用貯蔵品など業種や残るものによってさまざまな在庫が存在します。
在庫は正確な利益計算の最後の砦
資金計算をするにあたり利益をベースに考えるのであれば、正確な利益を出すための正確な在庫計算が必須となります。これが中小企業の大きな課題となっています。
①でも示した通り、業種によりさまざまな在庫が存在するわけですが、一番計算しやすそうな販売商品ですら、商品ごとの仕入値を正確に把握できていない、もしくは在庫数がわからない、計算システムに入力していない、という状況です。
製造業となればなおさらです。使用した材料、かかった人件費、包装費、運賃などを製品別に計算できている会社はごく少数だと思います。これは資金計画のためだけではなく、売上重視の経営から利益重視の経営にシフトする際に必要な部分です。
倒産を招くほどのミスを起こす可能性
今回特に伝えたかったのがこの部分です。図にもある通り、大きな繁忙期がある会社はその時期に向けて仕入を行います。この時にいくつかの条件が重なると手元のお金が一気に減少します。以下、危険な条件になります。
- 売上の入金サイトが長い
- 仕入の支払サイトが短い
- 売上に対する仕入率が高い(原価や変動率が高い)
- 手元資金が少ない
- 金融機関の評価が低い
図でもわかるように、売上が2か月後に入金する場合で、2ヶ月分の在庫保持が必要ですが、支払いが1か月後の場合には、支払いと入金に3ヶ月のズレが発生します。しかも仕入率が高いため、この差が大きな先行支出になります。
仮に繁忙期が予測よりも低調に推移した場合、どうなるでしょう。不良在庫、もしくは値引してでも資金を捻出せざるを得なくなる。これが悪循環のスタートです。
在庫は計算しやすい情報で、資金繰りにおいて重要
ここまで悲劇的な事例を取り上げてきましたが、一方でこの情報はとても計算しやすい情報でもあります。在庫という項目を丁寧に扱っていただき、正確な利益、そして安全な資金計画を立てることができるように取り組んでいただきたいと思います。