企業経営のなかで、「今期の資金計画を作ろう!」「今期の資金計画はこれだ!」という場面は少ないのではないでしょうか。黒字でも倒産はありますが、たいていの場合、資金が増えて倒産ということはありません。
ではなぜ売上計画や利益計画は立てるのに、資金計画を作成しない企業が多いのでしょうか。今回は、その謎を解いていきます。
資金計画が会社にない要因
資金計画を作成しない企業が多いのは、大きく三つの要因が考えられます。
- 資金計画を作るための知識不足
- 興味・関心のレベル
- 数値計画を作成する手順の認識違い
資金計画を作るための知識不足
損益計画を作れても、資金計画を作るとなると急に難しくなる会社は多いです。これは会社自体のレベルが低いというわけではなく、実際難しいためです。おそらく、損益計画を作成している顧問税理士に、資金計画を依頼してもすんなりは受託してもらえないケースは多いです。
損益計画と資金計画はまず計算方法に大きな違いがあり、かんたんに説明すると、損益計画は足し算のみに対し、資金計画は足し算・引き算・掛け算の組み合わせを使います。また、資金計画は一つの数値を導き出すのに多くの情報が必要です。計算の複雑さと必要情報の多さから諦めてしまう人が多いのだと思います。
売上(損益)と売掛金(資金)の具体的な計算方法の違いを見てみましょう。
売上の計算は担当者や商品ごとの売上を足していって売上計画の総計を算出できます。一方で、売掛金は計算された売上を取引先ごとに分け、消費税を加味し、更には得意先ごとの入金サイトを考慮して計算しなければなりません。
さらに、今月発生した売掛金と入金した売掛金の差を把握する必要もあります。指標によって算出方法が異なりかつ複雑なため、諦めてしまう経営者や経理担当者は多いのです。
ただし、「一度ルールを決める」「フォームを作る」といった対策を行えば問題が解消されるので、ぜひチャレンジしていただきたいです。
興味・関心のレベル
商品開発や営業戦略、機械化による効率化、給与改定、キャリアアップなどを考える機会に比べ、回収サイトの交渉、金融機関交渉、定期預金の整理、投資の見直しなどは明らかに地味で、かつ一部の人にしか公開されない情報ばかりです。
よって全社的な興味・関心レベルが低い議題となり、また計算の困難さも加わって、優先順位が落ちているのが現状です。
私たち会計のプロでも経験があるのですが、損益に関わるような戦略や計画の立案は非常に楽しく、充実します。しかし、そこで頭を使い果たし疲れてしまうのです。そうなってしまうと当然資金計画を作ろうと思う気力もなく、時間を空けて再度作るというのも難しくなります。
数値計画の作成順序を変えるといった対策を行い、資金計画作成へのモチベーションを保ちましょう。
数値計画を作成する手順の認識違い
ここで一つ自社のことを思い浮かべてください。「経営理念」と「部門方針」はどちらを先に考えるべきで、どちらがどちらに準じるべきでしょうか。当然、「経営理念」が先に作られ、「部門方針」は「経営理念」に準ずるべきです。
トップダウンやボトムアップという経営体制もありますが、それはアイデアや戦術の様な短期的意思決定の場合のみです。会社として目指すべきものを、部門方針によって作るわけではありません。
なぜ、このような問いをしたかというと、損益計画と資金計画の関係性を考えてほしいからです。損益計画と資金計画はどちらも重要ですが、会社の存続や発展に絶対的に必要なものはどちらでしょうか。その答えは資金計画なので、先に資金計画を作るべきではないかと考えていただくのが自然です。
本記事のまとめ
実務的に資金計画から作ることはイメージしづらいと思いますが、1-3『資金計画は何から順番に計算しないといけないのか』で解説しているので参考にしていただければと思います。
まずは「年間返済額」「年間投資額」を足した金額を確認して、損益計画を作成するだけでも大外れしない計画になるので、そこからはじめてみてください。