資金計画シリーズの最終回は、よく考えればわかることでも意外に失念しがちな事例を紹介します。タイトルの通り、保険や定期預金の中には将来の資金需要のために貯蓄として資金を充てる場合が多々あります。一方で、運転資金も含め大きな借入を行うこともあります。
保険や定期預金の為に借入を起こしたわけではなくても、結果としてそのような財務体質になっている場合があります。ぜひ一度貸借対照表を俯瞰してみて、このバランスが適正であるのかどうかを確認してください。
借入資金を充てる可能性がある主なもの
借入資金を充てる可能性があるものとして、下記5つが挙げられます。
- 保険積立金
- 定期預金
- 在庫
- 貸付金
- 買掛金を含む債務
保険積立金
保険商品の中には貯蓄能力の高いものがあります。仮に大きな保険積立金と大きな借入金がある場合には、保険積立金の利回りと借入金の利率を比較する必要があります。当然ですが、保険利回りが2%で借入利率が3%であれば検討の余地もないです。
ただしそう単純ではないのが保険の仕組みです。保険商品を提案される際には実質返戻率(税効果加味)での利回りを提示されることが多いです。これはあくまでも法人税が課税されるほどの利益を生み出す会社に適用されるもので、退職金目的のものなどは、長い期間の安定した利益と、解約時の多額の退職金計上を前提としています。
つまり、保険の税効果が得られない場合(利益が出ない)は想定利回りを下回る場合も当然考えられます。借入金がある場合の保険加入については、将来的な利益計画と利回り、利率を加味して慎重に判断しましょう。
返済可能額
保険よりも考えやすいとは思いますが、私の経験上あまり明確な目的がない定期預金を継続して持っている会社があります。それ自体が悪いことではないのですが、新たな融資を受けることと、定期預金を解約することのどちらが良いかの判断は必要です。
可別枠の貯金として考えるのであれば、それも一つの経営手法ですが、定期預金をないものとして借入金を起こすことで決算書自体が外部から悪い評価を受けてしまっては元も子もありません。
自己資本比率や固定長期適合率、対売上借入金比率など簡便的な表面上の評価を落とさない為にも、目的のある定期預金と最小限の借入金というバランスが望ましいです。
在庫
定期預金にも似たような考え方でいいかと思いますが、多額の在庫と借入金がある場合には、在庫を見直すいい機会です。借入を行う余裕がある、もしくは在庫を積むために借入金を利用するのが当たり前になると、在庫金額が膨らむことに違和感を覚えなくなります。
マインドとしては「どうせいつか売上に変わるものだから」という安心感が深く考えなくなることを助長しているのかもしれません。
しかし、定期預金と似て非なる部分があり、それは在庫に価値が約束されていない点です。仮に在庫が不良となった場合、評価が下がった場合、借入金は満額残るのに対し、在庫は資産価値が下がるのです。
ここで考えてほしいのは、借入で賄う在庫は資産価値が下がらない範囲で積上げるという事です。つまり確実に売れる量、確実に売れる価格までを想定して借入で賄う必要があります。もちろん業種特性上、季節性やロットの問題で上述の限りではないのですが、資金的な側面では以上のことを頭に入れて行うべきです。
貸付金
中小企業あるあると言ってはなんですが、多額の貸付金と多額の借入金を計上している会社を多々見受けられます。このケースの多くは、定期預金や在庫の比にならないぐらい評価を悪化してしまいます。よくあるのは貸付先が代表者、又は関連会社、関係者という場合です。
先ほど在庫は資産価値が下がる可能性があると記述しましたが、上記のような貸付金はそもそも評価対象ともなりえません。財産価値としての評価だけではなく、信頼度まで下がってしまうので、経営者の方はそのような状況になるのであれば、きちんとご自身の給与を上げて、それでも利益が出るような経営をしましょう。
買掛金を含む債務
仕入や外注の支払いは当然約定通り行う必要がありますが、まれに支払い条件の交渉を全くしないまま、言われるがまま、厳しい支払条件を受け入れている場合があります。業者からしたら親切な会社だと思いますが、その代償として厳しい支払条件を借入金でカバーすることになります。
CCCという指標がありますが、売上債権・在庫・原価債務の回転率を計算すると、明らかに支払い優先となる会社があります。このような場合、その負担を借入ですることが多く、買掛金が少ない代わりに借入金が発生してしまいます。借入金には利息が付きますので、親切心と利息を比べて判断しましょう。
自社の財務体質をしっかり分析しよう
以上のように、一度立ち止まって考えないと気付かないような資金的な弱点はたくさんあると思います。資金が厳しいといっても、実は自社の中に問題があることもよくあります。
業績改善と同時に自社の財務体質をしっかり分析し、まずは適正な資金バランスになるためのできることから始めてみましょう。