創業を成功させるには、「アイディアに富んでいるか」「付加価値が高いか」「顧客の支持を得ているか」が大切です。今回ご紹介する美容室の社長は、リーダーシップを起因に上記の成功のカギを従業員全員で勝ち取っていました。創業から成功までの道のり、そして実施したことをご紹介します。
概要と抱える課題
会社名:非公開
商圏:地方都市
業種:
弊社サービス導入当時は、開業して間もない従業員3名の美容室。現在では6店舗で従業員数40名程度まで業務拡大。
開業に伴い連れてきたスタッフの給与など、資金繰りへの不安
こちらの社長は10代で美容室へ入社後、その才能から20歳の若さで店長を任され、スタイリストとしての売上も社内トップ。そして、30歳を過ぎてまもなく独立開業を果たしました。開業にあたっての不安は、一緒に連れてきたスタッフを食べさせられるかの「資金繰り」でした。
開業当初は手元の資金が少ないので、とにかく収支がトントンになるよう売上を確保しなければ、企業としての体力が持ちません。正確には、損益分岐点売上高(損益ゼロになるときの売上高)をクリアすることが最低条件でした。
夢ではなく計数化した目標を掲げる
資金繰りの課題を解決するために、まずは3年後のあるべき姿を明確化する「経営計画」を作成いただきました。この経営計画は、もちろん「絵に描いた餅」でもなければ「棚からぼた餅」を期待したものでもありません。社長の夢を未来から逆算し、具体的な形にしたものにする必要があります。
そして社長が描いた経営計画は3年後の「あるべき姿」として、「売上高1億円、経常利益1,000万円、従業員数17名」という目標を掲げ、その目標を達成するまでの道筋もつけました。
こうしたビジョンをスタッフと共有し、全員で目標に向かって走り出しました。開業前は全員が遅くまで残って、顧客へのダイレクトメールの作成や内装を自分たちで行って経費を削減するなど大変な状況でしたが、スタッフの目は希望に満ちあふれていました。
人材という経営資源を最大限に活かす
美容業界は、「人材の定着率が悪い」といわれており、なぜならスタイリストとしてのスキルを身につけ指名客が増えてくると独立を考えるからです。ところが、同社では離職率が極めて低かったのです。
その理由は給与面ではなく、社長の経営理念が従業員の間に浸透して、共感を持って受け止められていたからです。そのため、職場はポジティブな雰囲気に包まれており、従業員は意識的に前向きな言葉を選んでいました。
こうした組織風土があるため、従業員は毎年新しいことにチャレンジしており、目標が社内で共有され、PDSサイクルがしっかり回っています。
経営理念が売上拡大のアイディアを生み出す
社長は、中期経営計画を作成する際、売上などの数値目標を設定するとともに、「やるべきこと」もはっきりさせました。それは、クオリティの高いヘアデザインの提供と心に残るサービスの追求です。
この経営理念を実現するには、従業員の育成がカギとなります。スタイリストやアシスタントが育てば、ニーズに合ったヘアスタイルなど顧客への提案力が強化されます。その結果、リピート率アップや来店サイクルの短縮、口コミによる新規顧客の増加など売上拡大にもつながったのです。
経営理念など事業の目的・ビジョンをはっきりさせると、実現するための手段や方法についてのさまざまなアイディアがわき出てきます。また、あるべき姿と現状の差を認識するためにも経営理念は明確にしましょう。
売上目標を達成するために行ったPDSサイクル
開業してこれまで道のりは決して楽なものではありませんでした。売上目標はすべて達成していきましたが、先行投資の回収の遅れで資金繰りが苦しくなり、社長の給与を払えないときもありました。しかし、PDSサイクルを回して目標管理を徹底したことで、勝利の方程式を手に入れていったのです。
例えば、店舗展開では市街地に出店するより郊外に出店した方が集客できることを実感したり、郊外への出店には駐車場が不可欠であることなど、手に入れた勝利の方程式はさまざまです。
売上目標を達成するには、「市場・顧客」、「商品・サービス」、「流通・立地」の3領域に目配りしなければなりません。誰になにをどうやって提供しているのか、この3つの視点でPDSサイクルを回す必要があります。
同社では、毎年2日間かけて行動計画を練り上げ、毎月の店長会議で実績の検証を行い、着実に成果を上げていったのです。
このことは金融機関の評価にもつながっています。
開業当初は信用保証協会が保証する「保証付融資」でしたが、経営計画の達成率の高さが評価され、開業4年目には金融機関から直接借り入れる「プロパー融資」が可能になりました。
起業成功に大切なのは、リーダーシップ
起業が成功するかどうかは、一般に「新規性」「収益性」「市場性」にかかっているといわれます。事業がいかに「アイディアに富んでいるか」「付加価値が高いか」「顧客の支持を得ているか」が大切なのです。
しかし、それだけで100%成否が決まるわけではありません。起業とは、本来トップ自らの価値観の具現化にあり、トップのリーダーシップが最も重要なファクターだといえます。とくに、未曾有の大転換(パラダイムシフト)のなかで、企業が生き延びるためには「変革」を成し遂げる強いリーダーシップが求められます。
注意点として、ワンマン経営にならないことがあります。人の意見に耳を傾けなくなると、同時に人からアドバイスをもらう機会も少なくなってしまい、視野が狭められてしまいます。
リーダーシップを発揮するのに必要なこと
リーダーシップを発揮するには、次のような3つの基本条件を満たす必要があると考えています。
・目的の実現に向けた信念と熱意がある
経営理念や会社の目的を熱く語り、その実現のためにビジョンや戦略を描き、針路を決定します。これは、経営計画の作成プロセスそのものです。
・メンバーに対して動機付けと啓発をする
メンバーの価値観に訴えながら、仕事へのロイヤリティを高めていきます。いつしか、メンバーは給与や待遇だけではなく、仕事そのものによって動機づけられていきます。これは、まさに目標管理の本質を示しています。
・コミュニケーションを密にとる
人心の統合を図り、メンバーの力を結集するには、普段のコミュニケーションが大切です。これは、PDSサイクルを回す中で必要とされることです。
いくら魅力的な行動計画を作成しても、リーダーが傍観者でいるかぎり、ほとんど成果は得られないでしょう。つねに先頭に立ち、リスクに率先して立ち向かうリーダーの姿をみて、メンバーは奮い立つのです。
同社の社長は、類いまれなリーダーシップの持ち主といえるでしょう。
部下に自信が芽生えるまで「伴走」を怠ってはいけません。危機感より達成感を共有する方が、メンバーのモチベーションが高まるのではないでしょうか。