事業承継は、入念な準備をした上で実施しなければ、スムーズに進められません。今回ご紹介する事例は、営業畑で働いていた息子が社長である父親から突然交代を言い渡されてから奮闘するお話です。
事業承継だけでなく、経営の立て直しまで求められる息子社長とともに伴走してサポートを行ったIGブレーンの事例について、事業継承をご検討中の経営者にお役立ていただけると幸いです。
概要と抱える課題
会社名:株式会社O社(仮称)
業種:食品製造業(食品の製造加工・販売)
商圏:非公開
営業畑にいた息子が突然の事業承継で社長に。
初代社長である父親から急遽事業承継を言い渡された息子社長。しかし、これまで営業畑でやってきたため決算書を見た経験もなく、社長としてこれから何をどうしたらいいのか全くわからない状況だったそうです。
さらに、事業承継の前年は最終利益こそ黒字で着地させていましたが、7,100万円の営業赤字をだしており、このままでは倒産という事態でした。
ちなみに事業承継を決めた父親は、銀行から紹介されたコンサル会社に事業承継のスキーム(計画案)を作成してもらい、銀行からの融資を受けていました。当時の営業赤字である7,100万円を最終的に黒字にしていたのは、その融資をもとに財テクで営業外収益を作っていたからでした。
またこの融資に関しては、長期借入で3年以内に完済するという約定がついた状態で事業承継もなされていましたが、息子社長は当時あまり理解していなかったです。
父親から突然「お前がなんとかしろ」と社長交代を言い渡されたそうで、当時は経営の「け」の字もわからない状況…。そんなときに弊社へ相談をいただきました。
現状把握から課題抽出後、営業改革を実施。
息子が会社を継いでから、まず一緒に行ったことは営業改革です。これまで疎遠になっていた得意先をすべて回り少しずつ出荷数を増やしつつ、原価の流れを一緒に確認していきました。
原価の流れを一緒に確認していったのは、現状を知って課題を抽出、そしてボトルネックを潰していく必要があったからです。
そうしていくうちに、徹底した限界利益管理が今後やっていくべき対策ということが発覚しました。限界利益とは、売上高から変動費を引いたもののことです。同社は、仕入れ単価の変動や取引先(大手メーカー)の売上単価を下げるような圧力などさまざまな要因から、限界利益率(売上高に対する限界利益の割合)にばらつきがあったのです。
そこで毎月の予実報告の際に、その時の状況に応じた対策を検討してきました。
さらに、仕入れから加工、出荷までのあらゆるデータをすべて広げて一つ一つ整理していきました。そこから工場内の配賦率や歩留率などを決定して、社内単価などを徹底していただきました。
毎月数値検証を徹底することで、あるべき姿に近づけた
毎月目標値に対する達成度を検証し、対応策を検討していった結果、外部環境のトレンドに乗れたこともありましたが、利益を目標以上に出し続けることができました。さらに遊休資産(事業目的で取得したが、さまざまな要因で使用していない資産)の売却も実施したため、長期借入を返済予定通りに完済できました。
また両親や兄弟が所有していた株式もすべて息子社長が買い取ることができたため、3年目でようやく自分がやりたい事業に注力できるようになりました。
数値などさまざまな視点で現状分析し、施策・検証が勝因
2021年度は大きく利益を出せるため、工場の機械入れ替えなどで1.4億円の投資を行いますが、それもすべて借入をすることなく自己資金でまかなえることも確認済みです。このような状況まで立て直せたのは、以下のようなことを事業承継のタイミングで実施したためと考えられます。
・現状分析、課題抽出
・中期経営計画の作成
納得するまで、会社のあるべき姿を検討し、その姿に近づくには何が必要なのかを検討する。
・単年度計画の作成
中期経営計画の実現するために、単年度での目標値や施策を検討する。
・予実
単年度計画に対し、毎月達成度を検証する。
経営の立て直しには上記項目が必要不可欠ですので、一人で悩みを抱えるのではなく早めに専門家へ相談をしてみるのがおすすめです。
現社長は、数年後に自身の息子に事業承継を検討しています。ご本人が事業承継で苦労した経験もあるため、現在の毎月の会議には息子さんも同席し、数字力を鍛えることを実施していますよ!